養老孟司さんに最初にお目にかかったのは、
養老さんが『日経サイエンス』上で
やっていた対談のゲストに呼ばれた
時だった。
「初めて会う気がしないね」
と養老さんが言われたことを
昨日のことのように覚えている。
その『日経サイエンス』の
対談シリーズを担当させていただく
ことになった時、何とも言えない感慨があった。
中学校の時から、購読していた。
思い切り背伸びして、科学の世界に
あこがれた。
マーティン・ガードナーの
「数学リクリエーション」
のコーナーを熱心に読んだ。
ぼくの大好きな雑誌、日経サイエンス。
現在の担当は、古田彩さん。
古田さんは
量子力学の基礎に詳しく、
Many Worlds Interpretationに基づく
理論を構築しているDavid Deutschと
親しくされている。
その
古田彩さんが、「対談シリーズは、現場に
出かけていくようにしませんか」
と言って下さってから、
さまざまな場所にお邪魔している。
今回うかがったのは、清水港に
停泊中の「ちきゅう」。
水面下数千メートルの海底から、
さらに数千メートル掘ると
到達する「マントル」。
そのマントルに至る掘削を
人類史上初めて実現するという
グランド・ミッションを掲げて
日本主導で進められているのが、
「ちきゅう」のプロジェクトである。
中心メンバーである倉本真一さんに、
「ちきゅう」の中をご案内いただきながら
説明いただいた。
初めて見る「ちきゅう」の船体。
大きい!

「ちきゅう」の雄姿
船の中は国際的な雰囲気。
クルーも研究者たちも、さまざまな
国籍の人たちが集まっている。
まさに「ちきゅう」規模の大プロジェクト。
科学においては、「初めて」に何よりも
価値がある。
マントルは、地球の体積の約83%
を占める。
地震波の測定などから、さまざまな
推測がなされているマントルだが、
実際にはどのような性質を持っているのか。
「ちきゅう」がマントルに至る掘削に
成功した時、そこには思いがけない
「サプライズ」が待っているかもしれない。
倉本さんと「ちきゅう」船内を歩きながら、
何とも言えない知的高揚を覚えた。
すでに、「ちきゅう」は掘削オペレーションを
始めている。
「地震の巣」の一つである「南海トラフ」
においても、掘削オペレーションを
成功させた。
マントルへの掘削を実現するには、
数多くの技術的、科学的課題を
解決しなければならない。
トーマス・クーンが「科学革命の構造」
で言う「パラダイム・シフト」に
最もよくあてはまる科学分野の一つが、
地球科学。
たとえば、「大陸移動説」や、
最近の「スノウボール・アース」
など、従来の常識ではとらえきれないような
新しい考え方が、地球の見方を一新させた。
地殻、マントルが長い時間をかけて
ダイナミックに循環しているというのが
最近の地球像。
現在問題とされている気候変動の
問題を理解するためにも、
地球内部を含めた物質循環の
プロセスの理解は欠かせない。
「ちきゅう」が掲げている
目標が達成される日が来ることを
心から祈り、応援したい。
掘り出された地層の円筒状のサンプルは
「コア」と呼ばれる。
実験室でサンプルを見せて
いただいて、その美しさに息を呑んだ。
「現物」だけが持っている迫力。

これが手に入れたかった! 「コア」の実物。
このサンプルを地上にもたらすために、
多くの人が言うに言われぬ苦労を
重ねてきたのだ。
こいつらだって、ずっと地球の内部で
眠っていて、
まさか自分たちが地上に連れ上げられる
なんて夢にも思っていなかったろう。
詩情と科学の論理が交錯する。
コアは、地上に持ってくると
どんどん変質してしまう。
「生鮮食料品」のようなもの。
すぐに非侵襲計測などをしなければ
ならないのだけれども、
そこは科学者の性。
現物を見ると、ついつい「これは
こうだ」などと議論を始めて
しまうのだそうだ。
そこを、「はい、気持ちを切り替えて」
と作業に徹するのが難しいのです
と倉本さんは言った。

「コア」の解析を終えて研究者がつくったという
記念のモデル。仕事を達成した解放感が
あふれる。

各ミッションの後に、そのプロセスで起こった
顕著な出来事をデザインするコンペが開かれる
とのこと。このような遊び心も、プロジェクトを
進めていく上で欠かせない。
居住スペースや、食堂を見せていただく。
長い航海の中で仕事の質を保つには、
気晴らしも欠かせない。
卓球台があった。
「卓球は人気があって、トーナメント戦が
あるのです」と倉本さんは言った。

「ちきゅう」内の卓球台

「ちきゅう」の居住スペースの様子。

居住スペースで考えにふける倉本真一さん
通りすがる人が「ハーイ!」
と言って去っていく。
楽しい中に緊張した空気が漂う
この科学プロジェクトが、
大きな実を結ぶ日が来ることを
みんなで見守りたい。

「ちきゅう」の食堂。さまざまな食文化に対応する。
おいしかった!

食堂の片隅には、クリスマス・ツリーが。

恩田裕治船長、私、倉本真一さん
最近のコメント